<金口木舌>「忘却力」はご免


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 先日亡くなった前衛芸術家の赤瀬川原平さんは流行語の生みの親だった。「超芸術トマソン」「中古カメラウイルス」「新解さん」などの造語で話題を提供した

 ▼最大のヒット作は「老人力」であろう。老いを肯定的に捉える逆転の発想は社会現象を生んだ。何よりも「老人」と「力」が結び付いたことは新鮮な驚きだった。老いの語感が少し明るくなった
 ▼類語も生まれた。「鈍感力」は細かいことにくよくよせず、おおらかに現代を生き抜く知恵。男性中心社会に果敢に挑む「女子力」は、爽やかな風を巻き起こした。いずれの造語も新しい価値観を提起した
 ▼文化庁長官を務めた心理学者の河合隼雄さんは「文化力」を国の施策に根付かせた。「文化の力で日本の社会を元気にしよう」という構想だった。ジョセフ・ナイ元米国防次官補が提唱した「ソフトパワー」は似た響きを持つ
 ▼軍事力という「ハードパワー」の対語である。沖縄21世紀ビジョンにもこの文字が見える。「柔」と「力」を組み合わせた外来語が県の将来計画にあるのも硬直した基地施策を打破しようという戦略の表れか
 ▼知事選も「ハードパワー」の後始末が争点となった。普天間問題をめぐる姿勢で変遷をたどってきた者同士の論戦を県民は注意深く見詰めている。公約の実行力こそ問われている。「忘却力」の発揮はごめんである。