<金口木舌>壁を越えられるか


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 人生にはさまざまな壁が立ちはだかる。解剖学者の養老孟司さんは、自分の脳に入ることしか理解できない人間の習性を「バカの壁」と称した

▼「小1の壁」は、働く母親が子どもの小学校入学を機に仕事と育児の両立が難しくなる状況を指す。「2人目の壁」は、第1子出産後に仕事と育児を両立する厳しさに気付き、2人目を諦める現象を指している
▼政府は人口減少に歯止めをかけるため、女性1人が生涯に産む子どもの数を推計した合計特殊出生率を1・8程度に引き上げる方針を打ち出した。あくまで「結婚や出産に関する国民の希望が実現する」ことを前提にした数字である
▼次年度からは育児支援を目的とした「子ども・子育て支援新制度」が始まる。市町村による保育所と幼稚園の統合・増設などで待機児童の解消も加速しそうだ。待機児童の多い沖縄にも好機だ
▼一方で、妊娠・出産を理由に職場で退職を迫られたり、嫌がらせを受けたりする「マタニティーハラスメント」が社会問題になっている。先進国の中でも日本の労働時間は長い。産みたくても産めない現実がある
▼国立社会保障・人口問題研究所の調査では、理想とする子どもの数通りに子を持たない理由に「心理的・肉体的負担」を挙げる回答が一定割合あった。子どものいる暮らしに希望が描けない限り、壁は突破できそうにない。