<金口木舌>言葉を見極めたい


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 認知症はかつて「痴呆」といわれた。だが言葉自体に「侮蔑的な意味がある」「実態を反映しない」などの理由で言い換えられた。おかげで今では症状も含めて理解が進むようになった

▼認知症の人を支援する名古屋市の社会福祉協議会は「徘(はい)徊(かい)」を「ひとり歩き」と言い換えた。「目的もなくうろうろする」のが徘徊だが、認知症の人が出歩くのは目的があるからだ
▼言い換える理由を説明するパンフレットを読んで、なぜ「ひとり歩き」をするのか分かった。外出した当初の目的を忘れて焦りが募る、昔の記憶と違う風景に戸惑うなどが理由だという
▼理由が分かれば、家族や関係機関だけでなく地域全体で声掛けなどの対処ができる。ただ言葉を言い換えただけでなく、なぜ変えたかを知ってもらう過程でその背景や対策まで理解が進む。言葉の使い方は大事な意義を持つ
▼言葉を“武器”とする政治の世界でも一緒だろう。沖縄の未来を語る上で、借り物でない自らの言葉を使い、どれだけ有権者に理解してもらうか。美辞麗句や誰かの意見を言い換えるのでなく候補者自身の言葉で勝負してほしい
▼最終盤を迎える知事選と県議補選に加え、那覇市長選も告示される。残り1週間での選択が沖縄の未来を決める。私たちの将来を託すのにふさわしいのは誰なのか。候補者一人一人の言葉をしっかり見極めたい。