<金口木舌>不便を楽しむ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 子どものころ、竹馬を作った世代と、既製品を買った世代の境目は1970年ごろか。取材先で話が弾んだ。還暦を過ぎた人は「手作りのせいか大切にしたね」と懐かしんだ

 ▼沖縄は竹が少なく手に入りにくい。子どもたちは工事現場を回って竹代わりに廃材を拾い集め、竹馬をこしらえた。物の少ない時代ならではの知恵と工夫に、豊かな創造性が見える
 ▼京都大学の工学者を中心に結成した「不便益システム研究所」が注目を集めている。研究所によると「不便益」は利便性の否定ではない。不便の中に手間や工夫を楽しめ、成長につながることもあるとの主張だ
 ▼「ミルク1杯」などの便利な表示がない電子レンジや、運転手が細かな走行プランを立てる必要のあるカーナビは不便益のいい例と紹介する。ひと手間掛けることで得ることもあるとの考えが新鮮に映る
 ▼デジタルカメラ全盛期の今、フィルムを使う「クラシックカメラ」の愛好者もいる。那覇市内の専門店「たかちよ」の顧客の多くは20~40代。店主の上原隆昭さん(72)はフィルムを入れて光量を測り、シャッター速度を考える手間が魅力という
 ▼小学校低学年からパソコン学習が導入されている。辞書や図書館で調べる作業を飛ばし、世界中の情報を瞬時に手に入れる方法を習得する。育ち盛りだからこそ、不便の中にある「益」も取り入れたい。