<金口木舌>人の営みと銀天街


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 酒宴はもちろん、何につけ食は専ら個人店に求める。そんな食通の先輩がいた。店探しの際の注文のうるささには、へきえきしたものである

▼今振り返れば、食の善しあしよりも、まずは店を営む「人の粋」に感じ入っていたように思う。場末といわれるような飾りっ気もなく、かなり年季の入った店なら喜々としていた
▼沖縄市のコザ十字路にある銀天街商店街。夜8時からこうこうと明かりのともる一角に、屋台が数軒並ぶ。道幅わずか2メートル、角のとれたテーブルに丸椅子、そして廃材を使った屋台には「ラーメン500円」の張り紙。その全てが不思議な魅力を醸し出す
▼銀天街商店街振興組合は9月いっぱいで解散した。周囲を見渡せば、閉店している店を探す方がたやすい。前途洋々とはいかない。だが、屋台店主の要守良さん(53)らは「年も年だが…」とこぼしながらも、街の再起に気合を振り絞る
▼県内では那覇市の栄町など、衰退が懸念されながらも徐々に盛り返す商店街がある。銀天街は違う手法を模索する。「全国ここにしかない昭和のコザの雰囲気を味わってもらいたい」
▼開店間もなく「むちゃくちゃ厳しい」と悲鳴を上げつつ営業する屋台は街の懐かしさと相まって、人の悲哀も重なる。規格化されない人の営みの明も暗も共有する。そんなところに、個人店のうまみがあるのかと感じ入る。