<金口木舌>常とう句


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 予想はしていたが、耳に入ってきたせりふにため息が出た。手あかにまみれた台本の一節をなぞるばかりでは物語は進まない。菅義偉官房長官の「粛々と進める」のことだ

▼普天間問題を問われるたびに、菅長官は常とう句となった「粛々」を繰り返す。辺野古移設反対の民意を示した知事選後の会見も相変わらず。「抑止力」や「固定化を避ける」という文言も援用しながら県民をけん制した
▼手元の辞書によると「粛」の一文字には「つつしむ」「うやうやしくする」「きびしい」などの字義がある。政府の司令塔兼広報マイクから盛んに流れてくる「粛々」の裏側にあるのは、沖縄の民意を顧みようとしない横柄な態度だ
▼沖縄の中でも普天間問題に絡んでこの言葉を聞いた。国との共同歩調で辺野古移設を進めようとした県知事や過去の名護市長が口にした。沖縄側が発した「粛々」は国への恭順の念がにじんでいたように思う
▼国策への忍従を沖縄に強いる安倍政権の本質が「粛々」の文字に宿る。沖縄の未来を描く台本に県民泣かせの常とう句を書き込む余地はない。それを明確に示したのが知事選だった。国も辺野古移設という古い台本を捨てる時
▼衆議院が解散する。間もなく訪れる総選挙の喧噪(けんそう)によって沖縄の民意がかき消されることがあってはならない。「粛々」を拒んだ沖縄の意思を突き付けよう。