<金口木舌>拍手する側の大スター


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 石垣島を訪ねた高倉健さんが、富野小中学校の運動会に出くわした。見たことのない競技「ナワナエ競争」が始まる

▼おじいさん、おばあさんが真剣な表情で縄をなう。子どもも大人も、みんな声を張り上げて応援している。いつの間にか健さんも手をたたいて応援していた
▼「僕の仕事は俳優だから、よくひとから拍手される。でも、拍手されるより、拍手するほうが、ずっと心がゆたかになる」。随筆「沖縄の運動会」(集英社刊「南極のペンギン」)にこう記す
▼映画館を出た男たちはみな健さんと同じ歩き方になったという任侠映画のヒーローだった。やがて「幸福の黄色いハンカチ」で変身を遂げる。口下手で不器用だけれども優しさのにじむ男。雪降る中に立つだけで絵になる健さんに男は憧れ、女はほれた
▼石垣の旅で星の美しさに感動した健さんは富野小中学校に望遠鏡を贈り、再訪して気付く。花壇もよく手入れされ、どこも掃除が行き届いている。「ゆたかだなー 僕はそう思った。このゆたかな島に住む子どもたちには望遠鏡など必要ないかもしれない。僕は望遠鏡をおくったことを、少し後悔した」
▼205本もの映画に出演し、一時代を築いた大スターでありながら拍手する側の心を知り、豊かさの故も知っていた。健さんの映画で心が豊かになった者たちが天に拍手を送るだろう。