<金口木舌>シッタンガラガラの響きから


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 ガタンゴトンではなくシッタンガラガラと列車は走る。汽笛はポッポーではなくアフィー。子どもたちが耳にした軽便鉄道の響きだ。しまくとぅばで「兄さん」を意味するアフィーと引っ掛けて遊んだのだろう

▼100年前の1914年12月、那覇・与那原間で沖縄県営鉄道が開業した。日本の鉄道事始めから遅れること42年。当時の本欄は「県鉄の汽車は玩弄(おもちゃ)みたい」と冷やかしつつ祝辞を記した
▼シッタンガラガラと文明の利器がやって来た年、欧州は第1次世界大戦の最中にあった。戦乱は沖縄にも暗い影を落とす。ドイツを主な輸出先としたアダン葉帽子製造業が打撃を受け、2万人の職人が失業した
▼職人たちは鉄道の敷設工事へと流れてゆく。「蒼白き顔を真黒になりて帽子編みし手にトロッコ等を押して行く様気の毒に存じられ候」と本紙は記す。威勢良いアフィーの裏に「帽子くまー」を担った職人の悲哀があった
▼沖縄県営鉄道は糸満、嘉手納へも路線を延ばす。1927年以降、年間乗客は100万人を超えた。しかし沖縄戦はその全てを破壊する。戦火の中にレールは消えた
▼那覇空港と首里を結ぶゆいレールの電動音は何に例えようか。シッタンガラガラに比すれば味気ないが、せめてあの時代の残響に耳を澄ませたい。若きアフィーたちの命を奪った戦世の向こうから、平和の祈りが聞こえてくるだろう。