<金口木舌>沖縄を守る塩


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 健康診断で毎年、高血圧を指摘される。医師のお達し通り、食事の塩分量には気を付けている。一方で命を守るのも塩である。夏場の熱中症防止には、適度の塩分補給が欠かせない

 ▼手元の沖縄語辞典には「まーす漬きてぃん生ちゅかすん」という語句がある。直訳すれば「塩に漬けても生かす」。私たちの祖先は、体が弱ろうとも長生きしようという願望を塩の効用に託したのであろう
 ▼新訳聖書には「地の塩」という言葉が出てくる。社会の不正を防ぐのに役立つ者を、食物の腐敗を防ぐ塩に例えた。沖縄の為政者に塩を求めたのが、ひめゆり学徒隊の引率教師だった仲宗根政善さん
 ▼屋良朝苗知事や平良幸市知事が日本政府との関係で抱いた苦悩を仲宗根さんは1976年11月の日記で「沖縄の塩」と例え、こうつづる。「もしこの塩がなければ、沖縄はたちまち腐り、沖縄ではなくなってしまう」
 ▼財政支援を求める陳情を重ねるあまり、政府の言いなりになっては沖縄は存在しなくなる。孤島苦にあえぐ中でこそ独自の創造が生まれる。そう説く仲宗根さんは、為政者の苦悩に沖縄を守る塩を見た
 ▼為政者だけではなく県民が戦後史の中で抱えてきた苦悩も今の沖縄を形づくった。翁長雄志新知事に苦悩を求めるのは気が引けるが、県民と共に歩み、悩みながら沖縄を守る塩を手にしてほしいと願っている。