<金口木舌> だれのための改憲


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 絵本作家・田島征三さんの「ぼくのこえがきこえますか」は、研ぎ澄まされた言葉で戦争の愚かさを説く。「くにのためにたたかえ」と励まされ、兵士になった「ぼく」が主人公だ

 ▼「ぼく」は砲弾を受けて即死、敵討ちに戦場へ行った弟も犠牲になる。息子を失った母の悲しみとともに、「ぼく」の魂の言葉が胸を打つ。「だれのためにころし、だれのためにころされるの? なんのためにしぬの?」
 ▼そんな問い掛けこそが戦後日本の出発点だった。日本は戦争放棄をうたった憲法の下、平和の道を歩んできた。それは後戻りの許されない一方通行の道である。歴代内閣もちゃんと守ってきた
 ▼だが「時代にそぐわない」と一方通行を逆進する改憲派がいる。9条の「戦力の不保持」「交戦権の否認」を削った憲法改正草案を2012年にまとめた自民党はその類い。衆院選で大勝した安倍晋三首相の目に改憲意欲がぎらついて映る
 ▼改憲後の社会は容易に想像がつく。米国の戦争に同盟国として参戦する恐れがある。殺し、殺されることで悲しみの連鎖が続く。「平和国家」の看板は地に落ち、隣国との溝はさらに深まる
 ▼「だれのため」「なんのため」の改憲か。安倍首相は「日本国民の安全を守るため」と言うだろう。だがそこに国民の安全はない。「くにのためにたたかえ」。そんな本音が透けて見える。