<金口木舌> スマホを置け、書を読もう


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 「書を捨てよ、町へ出よう」と若者にハッパを掛けたのは作家の寺山修司だった。書物で得た常識に疑問を持ち、行動することで新たな視座を開くという意図だったと思う

 ▼いまや町へ出ずとも、いつ、どんな場所であろうと情報は得られる。多機能携帯電話(スマートフォン=スマホ)の無料通話ソフトを使えば、困った場面でも即座に友人から助言が得られる
 ▼これだけ便利なら中高校生の9割近くが勉強にスマホを活用するのもうなずける(16日付33面)。気掛かりなのは「情報収集」や「分からないところを質問する」などの使い方だ。文献や資料に当たらず、手軽に入手できる情報を使う
 ▼読書離れをテーマにしたNHKの番組で、読書習慣のある大学生とない大学生が同じ題の小論文をまとめる実験があった。読書習慣のある学生はネットを足掛かりに文献をたどって独自の意見を展開した
 ▼一方、読書習慣のない学生はネットにあふれる情報をまとめただけでしかなかった。無料の情報という便利さを享受するのはいいが、想像力といった若者ならではの特性まで失っては元も子もない
 ▼誰もが得られる情報を自分の考えのように誤解しては、どこを切っても同じ金太郎あめのような均一的な社会になって味気ない。寺山の書名をもじれば「スマホを置け、書を読もう」。そんな言葉が若者たちに届くだろうか。