<金口木舌> 文化財の発信力と地域発展


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 保存の会が発足して10年。名護市にある国の重要無形文化財「津嘉山酒造所施設」主屋の解体修復が本格化している。壁の一枚一枚、漆喰(しっくい)の一層一層を丁寧に剥ぎ取り、かつての面影を探し出す地道な作業だ

 ▼建築されたのは1928年ごろで、赤瓦木造建築物では首里城に次ぐ規模を誇る。戦前の建物で操業する県内唯一の酒造所だ。沖縄戦中や戦後しばらくは米軍のパン工場や事務所として使われ、生き延びた
 ▼解体され、骨組みだけになったが、くぎ穴や柱のかき取り跡などが当時を知る手掛かりになる。浅葱(あさぎ)の壁や床の間の段差棚の跡は書院造りの特徴で、本土風の建築技術を取り入れているそうだ
▼歴史をひもとき、知らない世界に触れることに、多くの人は胸をときめかす。一方で、岸本林保存の会会長(名護市文化財保存調査委員長)は「文化財などの地域の宝に市民が気付いていない面がある」と指摘する
 ▼市の観光ガイド養成講座受講者の7~8割は本土を含む市外出身者が占めている。岸本会長は「受講者から、やんばるの自然や文化に触れ、それを知り伝えたいという思いをひしひしと感じる」と言う
 ▼地域文化を語られるかを問われれば、自信のない市民も多かろう。地元が考える以上に魅力ある資源が各地にある。文化財を守り、その価値を発信する。そこに観光を含めた地域発展の道が見えてくる。