<金口木舌>歴史が育む沖縄の色


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 漆は湿度の高い方が乾きやすい。沖縄の気候は漆芸には最適だ。そんな話をやんばるで活動する漆芸作家から聞いた。洗濯物と逆ではないか。作家の話に相づちを打ちながらも疑問は募るばかり

▼数冊の資料に目を通し、ようやく理解できた。漆は空気中の水分から酸素を取り込んで固まる。最適な湿度は75~85%で気温は25~30度。確かに沖縄の気候は条件に合う
▼強い紫外線は琉球漆器の独特な朱色をつくる。透明度が増し、漆に混ぜた顔料が鮮やかに発色するためで、こちらも皮膚とは逆だ。漆職人や工芸愛好者には常識であろうが、門外漢には未知の領域である
▼現代人は高温多湿や紫外線を「お肌の敵」と敬遠しよう。沖縄の先人は気候風土を糧に伝統を築き上げ、他県の産地にはない色と技法を誇る琉球漆器を生んだ
▼約70年前に巻き起こった戦塵(せんじん)は伝統の色を覆い尽くした。しかし、消えたのではない。1945年9月7日、戦後初の行政機関である沖縄諮詢会は漆器を含む美術工芸の再興を協議した。沖縄戦で戦った日米両軍が旧越来村で降伏文書を交わした日だ
▼戦後初の復興工芸展が48年9月に開かれる。本紙は「溌(はつ)らつたり復興色」と報じた。出品された漆器は鮮やかな色を放ったはずだ。苦難の歴史によって育まれた色が沖縄にある。営々と伝承される伝統工芸に、そのような色を訪ねたい。

※注:「溌」は、「発」が「發」