<金口木舌>モノレールで七島灘越え


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 正月明け、浦添市の沖縄国際センター周辺を自転車で駆けていると、前田トンネルの前後に立つモノレールの支柱に出くわした。「年末に完成した」と現場作業員。近くに経塚駅ができ、4年後に開業する

 ▼トンネルがある丘の上には組踊を生んだ玉城朝薫の眠る墓がある。沖縄戦で激しく損傷し、10年前に復元された。モノレールの乗客は美しい石積みを車窓から眺めることになろう
 ▼子孫の証言で墓が確認されたのは、朝薫生誕300年の1984年。市の道路整備で取り壊す予定だったが、丘にトンネルを掘ることで保存した。今は市の指定文化財である
 ▼朝薫は死後、首里石嶺の墓に葬られ、後年浦添の墓に遺骨が移された。伊波普猷は著書「校注琉球戯曲集」で、空となった首里の墓に「古人の英姿」を偲(しの)ぶ。その伊波も浦添城跡内の墓地に眠る
 ▼この本で伊波は「国語は民族の呼吸」と論じ、朝薫が琉球語で呼吸した時代に思いをはせた。伊波が生きたのは琉球語の言霊が消え、自己表現の言葉を失った「呼吸困難」の時代。沖縄の創作活動に立ちはだかる「言語の七島灘(なだ)」を伊波は憂えた
 ▼県出身作家の活躍で七島灘は乗り越えられた。朝薫の五番もことしから5年間、能と共に横浜で演じられる。組踊の始祖も喜んでいよう。その魂がモノレールに乗って七島灘越えの旅路に就くのを楽しく想像してみた。