<金口木舌>一途に生きる女性たち


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 思春期の娘と父親の葛藤はどこの家庭にもあるだろうが、土佐に生まれた父娘には家業が暗い影を落とした。父は「芸妓娼妓紹介業」を営む。貧しい家の女性を花街へあっせんする仕事だ

▼世間の目は冷ややかで、クラス代表になっても土壇場で降ろされたり、校則違反がないのに操行の成績が悪かったりした。娘は家業を恨み、父を憎む。「口が裂けても父親の職業は人に明かすまいと子どもながらに決心した」
▼しかし48歳まで続いた出自への劣等感が小説家への道を開いた。生家や出生を余すところなく書いた自伝的小説「櫂」が、作家・宮尾登美子を誕生させた
▼以来、女性を主人公にした多くの作品を生む。宮尾さんが描くのは、因習や運命に翻弄(ほんろう)されながらも芯の通った一途に生きる女性たち。着物の柄行きで女の気持ちを表現するような細やかな筆致も魅力だった
▼沖縄と土佐・高知は黒潮の恩恵を受け、海を行き来して交流した歴史を持つ。そのためか宮尾さんが描く土佐の女も身近に感じる。逆境にあっても強くしなやかな沖縄の女性たちに通じるものがあるのかもしれない
▼いい作品を生むために「血を流し、痛みに耐えながらその姿を人前にさらす勇気がなくてはならぬ」と決めた宮尾さんも芯の通った土佐の女性だった。運命を泳ぎ切った父娘はいまごろ仲良く語らっていることだろう。