<金口木舌>誰もが当事者


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 歩道の段差に車輪を取られ、なかなか前へ進めない。違法駐車のバイクに行く手を阻まれた。3年半ほど前、糸満市西崎であった地震と津波を想定した避難訓練を取材し、高齢者が乗った車いすを押した時のことだ

▼団地の4階を目指して車いすを担ぎ、階段を上る男性3人は汗だくで息も絶え絶え。災害に襲われたら高齢者や障がいのある人の避難はどうなるのか。考えるだけで冷や汗が出た
▼琉球新報社の2014年の調べでは、災害発生時に高齢者や障がい者の避難を手助けする全体計画があるのは41市町村のうち24市町村にすぎない。避難支援や安否確認に不可欠な「災害時要援護者名簿」を作成したのは27市町村だった
▼災害弱者支援体制の弱さの背景には職員不足や財政難があるが、事は命に関わることである。災害時対策を優先できないものか。ノンフィクション作家の柳田邦男さんは「災害は地域社会が抱える弱点や災害弱者を冷酷なまでに狙い撃ちする」と指摘する
▼災害時の助け合いは何も行政だけが責任を負うものではない。自治会や学校を拠点にした顔の見える関係づくりも欠かせない。行政の取り組みが縦糸なら、地域力は横糸だ
▼災害はいつ降り掛かってくるか分からない。病気や老化で体が不自由になることは誰にでもあり得る。当事者意識を胸に、阪神・淡路大震災から20年を迎えたい。