<金口木舌>沖縄少年院の成人式


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 家族や社会に背を向けて生きたつらさが表情ににじんだ。窃盗、傷害、道路交通法違反…。親の庇護(ひご)もなく社会をさまよい、心すさむ道だったろう。そんな少年たちが20歳を迎えた

▼ことし、沖縄少年院では7人が成人式に臨んだ。故郷でもない、同窓生もいない式典。「一生に一度の成人式を少年院で迎えてしまった。そのことを親に謝りたい」。新成人たちは悔やんだ
▼「父さん、母さん」と切り出した新成人は途中で感情を抑え切れず、おえつした。「甘い考えや意志の弱さで逃げていた」。別の新成人は裕福な家を飛び出して3年。仕事を転々とし「薬物にも手を出した」
▼過去を振り返り、後悔は隠せない。それでもやっと家族、社会と向き合って20歳の覚悟も述べた。「マイナスからのスタートになる。でもはい上がり、いつか支える人に」。言葉はきっと誰かに通じる
▼成人式の父母席はまばらだった。新成人の中には両親が出席せず、つらさが一層身に染みた人もいた。一方で、決意の言葉に触れ、頬をハンカチで拭う母の姿もあった
▼親代わりとなる「協力雇用主」という仕組みがある。再びすさんだ道に入らぬよう、出院の際に就職を決め、社会が親代わりとなる。県内で約130社が加入する。時につらい現実に出くわすことも多いであろう新成人に誰かが救いの道を示す。そんな社会を大切にしたい。