<金口木舌>月桃の香りの裏には


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 自宅でムーチーを作って食べた。味はともかく、この数日の陽気では風物詩の魅力が減じてしまう。本来ならムーチービーサを体感しながら、口に広がる甘い香りと温かな食感を楽しみたい

▼幼いころ、道端に生えた月桃の葉をちぎっては指ですりつぶし、鼻先に近づけて遊んだ。香りだけでムーチーを食べたような気分に浸った。その遊びを大人になった今も続けている。妙な癖だと笑われそうだ
▼月桃はショウガ科の多年草で繁殖力は強い。米軍基地の金網沿いのわずかな土地でも豊かに生い茂る月桃を見たことがあろう。人を和ませる香りの裏に強い生命力が宿る
▼普天間飛行場の金網が並ぶ宜野湾市佐真下でひっそりと繁茂する月桃の群生を見つけた。オスプレイが鎮座する広大な駐機場に面した地で根を張っている。不条理への抵抗を見る思いがする。葉をちぎり、いつもの癖をやった
▼キャンプ・シュワブ前では新基地建設に反対する市民が「鬼払い」を祈ってムーチーを金網につるした。芳香の裏には「鬼」たちの横暴を許さぬ県民の怒りがあることを日本政府は知るべきだ
▼オスプレイ配備撤回と普天間県内移設断念を求める「建白書」の提出から、きょうで2年となる。県民の意思は着実に根を張り、世界に向けて香を放っている。厳しい寒風が続くかもしれないが、ワカリビーサの後には春がやってくる。