<金口木舌>こまごました議論


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 政治家にとって、言葉は発した通りの結果を表す“言霊”にもなる。だからこそ議論し、思いを込めたのだろう。戦後50年を迎えた1995年。村山富市首相は戦争に対する日本の反省を表明したいと案を練る。アジア各国に対して「植民地支配と侵略」を謝罪した村山談話だ

▼村山氏の回顧録によると、最も議論したのは「侵略」の表現。「侵略的行為」とぼかすか、「侵略戦争」にするか。官房長官や官僚らも交えて細部に神経を使い、言葉にこだわった
▼村山談話は中国、韓国だけでなくアジア諸国に受け入れられ、戦後60年の小泉談話にも継承された。村山氏は歴代内閣が村山談話を無視できない理由として「外交関係を維持し発展させるためにはこれ以外はない」とみる
▼ことし、戦後70年の首相談話を検討中なのは安倍首相だ。先日のインタビューでは「植民地支配や侵略」「痛切な反省」など歴代内閣のキーワードの継承に否定的な考えを示し、「こまごました議論」と切って捨てた
▼与野党からの批判を懸念したか、28日の参院本会議では「歴代内閣の立場を引き継いでいく」と表明。「先の大戦への反省」などを「英知を結集して書き込む」と述べた
▼国内外が注視する談話には安倍首相の歴史認識が反映される。日本外交にも大きく影響する。宿る言霊の行方は「こまごました議論」では済まないはずだ。