<金口木舌>もう一つのインフルエンザ対策


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 助産師が立ち会う分娩と医師が行う分娩では、産婦が患う産褥(さんじょく)熱の発生率が大きく異なる。オーストリアの病院で、その違いに疑問を持った医師イグナーツ・ゼンメルワイスは、医師の手に付着した遺体の微粒子(細菌)が産褥熱の原因と推察し、塩素水による手洗いを強く促した

▼19世紀半ばのこと。医師は死体を解剖した後も手を洗わず、出産に立ち会っていた。手洗いが浸透した後、産褥熱の発生は劇的に減少した。ゼンメルワイスの発見は、疾病予防における手洗いの重要性を世界に知らしめた
▼県内で今、インフルエンザが猛威を振るっている。県によると、直近の1定点医療機関当たりの患者数は警報水準(30人)を超える65・16人。前週に比べて減っているが、依然として多い
▼手洗いはインフルエンザの予防策の一つ。うがい、せきエチケットも合わせた従来の予防策に加え、見逃せないのは職場など人が集まる場の環境だ
▼県内の感染症内科医は、インフルエンザと診断されたにもかかわらず、同僚に負担をかけまいと出社した結果、感染を広げてしまう会社員がいると指摘する。医師は「調子が悪ければ休めるような職場の雰囲気が大事」と指摘する
▼ゼンメルワイスに促され手洗いを励行した病院のように、疾病を広げないためにも、体調が悪い時には気兼ねなく休める雰囲気づくりがもう一つの予防策になる。