<金口木舌>滴り落ちるか。


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 滴り落ちるという意味の「トリクルダウン」理論が議論になっている。安倍晋三首相は2日の参院予算委員会で、この理論について「われわれが行っている政策とは違う」と強調した

 ▼シャンパンタワーの絵がこの理論を説明する。上からあふれた液体が下のグラスに落ちていくように企業や富裕層が潤うと、やがて恩恵が社会全体にこぼれ落ちるという仮説だ
 ▼アベノミクスは企業収益向上が経済成長につながるという考えを核として法人税減税などを進める。首相は衆院選前、「企業収益が増え、雇用が拡大し、賃金が上昇し、消費が拡大し、景気が回復する。経済の好循環が生まれようとしている」と力説した
 ▼今回、首相がトリクルダウンを否定した伏線は、経済学者トマ・ピケティ氏にあるのかもしれない。不平等や格差に警鐘を鳴らす著書「21世紀の資本」を引っ提げて来日。講演でトリクルダウンについて「過去を見渡してもそうならなかったし、未来でもうまくいく保証はない」と否定した
 ▼効果を肯定する経済学者もいるから検証はこれからだ。しかしピケティ氏が反響を呼ぶのは、世界中で経済格差が社会に暗い影を落としているからだろう
 ▼日本でも若者が正規雇用に就けず、子どもの貧困は広がる。滴りを待っていられない多くの人たちを救う経済政策に、政権は目を向けてほしい。