<金口木舌>火事場泥棒?


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 東日本大震災の後、海外メディアが驚いたのは「なぜ略奪行為が起きないのか」だった。混乱の中でも秩序を守る日本人の姿は広く伝わり、海外からも尊敬の念を集めた

▼逆に混乱に乗じて不当な利益を得ることを「火事場泥棒」という。この言葉を思い出したのは安倍晋三首相が「憲法9条改正に意欲」を見せた発言をしたからだ
▼「イスラム国」による邦人人質事件に絡み、国会では改憲に踏み込んだ議論が交わされる。改憲に積極的な次世代の党も首相の背中を押すかのような質問を続ける。しかし思い出してほしい。自民党が提案した憲法改正草案の中身を
▼権利と引き替えの義務を国民に要求し、その権利も「公益及び公の秩序」の前では制限される。揚げ句「家族は互いに助け合わなければならない」と言わずもがなの道徳観まで押し付ける
▼自民草案には憲法に対する思想も人類が積み重ねた歴史への敬意もない。参議院憲法審査会幹事も務めた自民党の西田昌司氏は、生まれながらに人が基本的人権を持つという「天賦人権論」を「(自民草案では)採りません」と明言している
▼改憲となれば9条だけにとどまらない。国の姿、私たちの暮らしが破壊される恐れもはらんでいる。勇ましい言葉が空回りする国会では冷静な議論を望みたい。混乱に乗じた改憲論議はそれこそ「火事場泥棒」と言われかねない。