<金口木舌>昔は良かった?


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 世間を騒がす事件が起きると「最近はモラルが低下している」との嘆きをよく聞く。公共の場でのマナーの悪さも、人付き合いの希薄さも「昔はこうではなかったのに」とぼやきがちだ

▼政治家や論客の中には、戦後教育のせいだと決め付け、修身や教育勅語でしつけられていた戦前を懐かしむ人も多い。果たしてそうだろうか
▼『「昔はよかった」と言うけれど』の著者・大倉幸宏さんは、明治期から戦前までの世相を新聞記事や文献で調べた。列車では人を押しのけ席を奪う。道や川に平気でごみを捨てる。公園の花を抜いて持ち帰る。運送業者が客の荷物を抜き取る。鶏肉にウサギ肉を交ぜて売る。年老いた親を虐待する-
▼全て戦前まで頻繁にあったことだ。当局が何度も警告を出すほど社会問題となっていた。大倉さんは、昨今の問題点を認めつつも、戦前の人たちよりも、今の方が高い道徳心を身に付けていると断言する
▼人は過去を正当化、美化する傾向がある。古き良き時代への幻想に浸ってしまうと、思考停止して真実を見る目が曇ってしまう
▼小中学校の道徳が教科に格上げされ、小1から「日本を愛する態度」を教えるという。戦前は修身の授業で国家が愛国心を植え付けた。それがどんな悲劇を招いたか。「昔は良かった」と過度に過去を肯定する言説は、眉に唾を付けて見ておいた方がいい。