<金口木舌>絶叫調に用心を


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 テレビの国会中継で安倍晋三首相の施政方針演説や答弁を聞いていると気がめいってくる。絶叫気味の声に与党議員が拍手で応える場面では胸騒ぎを感じる

 ▼普天間問題では「裏付けのない言葉ではなく、実際の行動で沖縄の基地負担の軽減に取り組む」と大見えを切った。海上保安官の過剰警備やサンゴを押しつぶすトンブロックの投下を「行動」と呼ぶのなら、あまりにも乱暴ではないか
 ▼「実行しよう」「変えていこう」という紋切り型の弁舌には用心したい。小説家・永井荷風の日記「断腸亭日乗」の一節が参考になる。太平洋戦争勃発から4日後、荷風の筆は当時の世相を皮肉る
 ▼「屠(ほふ)れ英米我らの敵だ」「進め一億火の玉だ」という檄文(げきぶん)を街中で見た荷風は日記に記す。「現代人のつくる広告文には鉄だ力だ国力だ何だかだとダの字にて調子を取るくせあり。寔(まこと)にこれ駄句駄字というべし」
 ▼詩人、山之口貘は「だだ」の2文字で時代と対峙(たいじ)した。1939年の作品「紙の上」で「一匹の詩人が紙の上にゐて 群れ飛ぶ日の丸を見あげては だだ だだ と叫んでゐる」とつづっている。戦時下でのぎりぎりの抵抗が「だだ」にこもる
 ▼「批判だけを繰り返していても、何も生まれません」と安倍首相は威勢が良いが、批判を許さぬ社会の結末は歴史が証明している。荷風や貘の言葉に学ぶ時である。