<金口木舌>ベトナムでの青年の死


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 基地に埋もれゆく故郷に絶望しながらも米軍に入隊し、ベトナム戦争で亡くなった青年がいた。沖縄市戦後文化資料展示室「ヒストリート2」で開催中の写真展(3月末まで)で、報道カメラマン石川文洋さんが青年の短い生涯の一コマを伝えている

▼土池(どおいけ)敏夫さんは広島出身の父と沖縄出身の母の間に生まれた。出身地は那覇市の西武門。米軍入隊に至る土池さんの心境は石川さんの著書「戦場カメラマン」(朝日文庫)に詳しい
▼「基地がどんどん大きくなるのはほんとに嫌だった。そんな沖縄にいてどんなまともな仕事ができるんだい」「沖縄から離れて世界へ出るにはこれが一番の早道なんだ。兵役の3年間だけ歯をくいしばって辛抱すれば、あとは自由だもの」
▼除隊後は大学進学を思い描いた人生だったが、カンボジア国境での戦闘で奪われた。19歳だった。米軍支配下で自由を渇望し生き急ぐ青年にとっては、忌み嫌った基地への思いを押し殺してでも、米軍に入隊するのが唯一の道だったか。志半ばでの死はさぞ無念だっただろう
▼写真展では戦地での土池さんの姿が3枚展示されている。勇敢に振る舞う一方、おびえたような表情で銃口を下げ、ベトナムの人々に向き合う姿も記録されている
▼土池さんのおびえ、夢がかなわなかった無念さ、家族の落涙に思いを致し、「より良き故郷に」と誓いを立てる。