<金口木舌>物言える社会


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「私は16歳の時に自殺未遂した。自分が変わり者で居場所がない気がしたから。でも今ここに立っている」。スピーチが始まると、米アカデミー賞の華やかな授賞式会場は静まり返った

▼「そういう若者へ。君には居場所がある。そのままで大丈夫。そして輝く時が来たら、この言葉を次の世代につなげてほしい」。脚色賞に輝いたグレアム・ムーアさんには共感する大きな拍手が送られた
▼ことしの受賞者からは移民や人種問題、表現の自由などへの発言が相次いだ。助演女優賞のパトリシア・アークエットさんは「女性の権利のために闘おう」と呼び掛け、客席のメリル・ストリープさんらが快哉(かいさい)を叫ぶ姿が映し出された
▼授賞式を見ながら政治・社会的発言がタブー視される日本の芸能界を思った。ある芸能人へのインタビューで沖縄の基地問題について質問した。その人は言葉を選びながら真摯(しんし)に答え始めたが、傍らのマネジャーに止められた
▼政府がテレビ局の衆院選報道に細かい注文を付けたり、サザンオールスターズのパフォーマンスが謝罪に追い込まれたり。自由な言葉を発することや表現範囲が狭まる息苦しさを日本では感じる。国会でさえも「イスラム国」に対する政府対応への批判を自粛する
▼言いたいことを自由に言う。表現者としてのハリウッドスターの輝きが、かつてないほどまぶしく思えた。