<金口木舌>わが軍と呼ばない放送局


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 世界で初めてテレビ放送を始めたのは英国のBBCだ。ラジオを含めると93年の歴史を持つ“老舗”だが、公平性を貫く報道姿勢でも世界から一目置かれる

 ▼82年のフォークランド紛争の際は「わが軍」「敵軍」と言わずに「英国軍」「アルゼンチン軍」と呼び、客観報道に努めた。時のサッチャー首相は激怒した
 ▼第2次大戦中も戦況を正確に報道したため、チャーチル首相を立腹させた。イラク戦争時には「イラクは45分で大量破壊兵器を使える」というブレア政権の情報操作をスクープした。政府と対立しながらも、国民に正しい情報を伝えることで信頼を得てきた
 ▼同じ公共放送のNHKはどうか。籾井勝人会長は先日「『従軍慰安婦』問題は政府の正式なスタンスが見えないので、慎重に考えないといけない」と述べた。国営放送と勘違いしているのか、目は視聴者よりもお上を向いている
 ▼就任会見でも「秘密保護法は通ったので言ってもしょうがない」「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と言い放ち、批判を浴びた。放送人としての気概や使命感が感じられない
 ▼トップの逸脱した発言も、繰り返されると現場への影響が気掛かりだ。お笑いコンビ爆笑問題が政治家ネタをボツにされたのも、自粛の空気が漂い始めたからではないか。権力の片棒担ぎをしていては良質な番組作りに励む現場が泣く。