<金口木舌>優先されるのは生徒の回復


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 唱歌を口ずさみ、体操で体をほぐす利用者。十数年前に訪ねた名護市内のケア付き託老所「浅茅の里」は温かな雰囲気に包まれていた

 ▼職員が声を掛け、手を取り迎える。物忘れが増えた高齢者もいれば、目の不自由な人も。家に引きこもりがちな高齢者にとって、そこは大切な触れ合いの場である。デイサービスが公的制度で十分に整備されていなかった時代、託老所は制度のはざまを埋める役割を果たした
 ▼西原町の小学校で2012年、当時5年生だった男子中学生が体育の授業中に頭を強打し、後に脳脊髄液減少症を発症した。家族は高額な治療費を負担し、制度のはざまで今も苦しむ
 ▼西原町教育委員会は「学校で起きたことなので、少なくとも責任はある」とし、保険適用内の治療費は「日本スポーツ振興センター」の保険で支払った。だが、完治も可能な県外病院での治療は保険適用外。町教委は他の賠償制度での対応を検討するが、支払いのめどは立たない
 ▼文科省が学校で起きた突然死や重い後遺症を伴う事故で災害共済給付制度の対象となった558件を調べたところ、授業中が2割で、大半を体育の時間が占めた
 ▼生徒の主治医は、治療を続ければ完治に向かうと言っているというが「お金が底をついたら」と父親は苦悩する。教委が独自に補助する方法もある。生徒の回復を何より優先してほしい。