<金口木舌>故郷の文化を味わう


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 自動販売機で他の銘柄と一緒にオリオンビールが売られているのを見て、涙が出そうになった。1997年、海難事故の取材で訪れた小笠原諸島父島でのことだ

 ▼沖縄から飛行機で東京に渡り、船で約25時間。想像以上に遠く感じられた。6日に1便。3日目を過ぎた辺りで偶然、見つけた沖縄のビールは厳しい取材で心細くも感じていた20代の筆者を癒やしてくれた
 ▼出張で全国に行くと、本当に多くの沖縄料理店に出合う。出される料理や酒は普段から口にするものだが、つい入って注文してしまう。本土の人が琉球料理や泡盛を味わっているのを見るとうれしくなるから不思議だ
 ▼東京新宿歌舞伎町で、創業67年の老舗沖縄料理店「南風」が3月末で閉店する。東京で泡盛や故郷の味が楽しめる場所がまた一つ減ることに寂しさも感じる。故郷の味の一つといえる泡盛だが、出荷数が年々減っている
 ▼沖縄観光連盟が行った大学生対象の意識調査で、泡盛を「ほとんど飲まない」学生は全体の65%を超えた。「においがきつい」という理由が挙がるが、復帰前の泡盛を知る世代からは異論も出そうだ
 ▼広く普及させようと、泡盛を使ったカクテルなど新しい飲み方も考案されている。8月からは古酒の表示基準をさらに厳格化する動きもある。売るための工夫は必要だ。故郷の文化を全国で楽しむためにも。