<金口木舌>子どもの死角


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 朝から社会部の電話が鳴り続けた。1本は息子がいじめに遭っているという女性からだった。被害を訴え、学校の対応に怒り、最後は涙声になった

 ▼「いじめ」をテーマにした連載を担当していた12年前のことだ。連載開始直後から100本近い電話やメールが来て、いじめの多さに驚いた。不良グループの暴力に耐えかね転校させた親もいた。いじめが原因で不登校になった子どものことを切々と書いてきた父親もいた
 ▼子どもがいじめられれば、親は平静ではいられない。ましてや暴力の犠牲になったとしたら。川崎市で起きた中1男子殺害事件で、被害者の母親のコメントには胸がふさがる
 ▼「今思えば、(息子は)私や家族に心配や迷惑をかけまいと、必死に平静を装っていたのだと思います」。5人の子を1人で働いて育てる母と、親を気遣う息子の姿が浮かぶ
 ▼思春期になると、自分の世界に大人を立ち入らせない傾向が強まる。無料でメッセージ交換ができる通信アプリなどの普及で、子どもたちの動きはさらに見えなくなっている。男子が殴られた時も友人たちが加害者に抗議したが、大人の介在はなかった
 ▼学校が努力していたことは分かる。だが被害者も加害者も、大人に見守られている実感は薄かったのだろう。事件はどこでも起き得る。子どもの世界に死角をなくす。大人に今求められていることだ。