<金口木舌>なぜオウムに引かれたか


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 やや混み合う電車に乗り、つり革につかまる。狭い車内はスマートフォンを見詰める人がほとんど。朝の地下鉄には平穏な日常を始める人々の姿がある。何げないこの光景に20年前、毒薬がまかれた

▼新興宗教オウム真理教の幹部らが都内の地下鉄3路線に猛毒のサリンをまいた地下鉄サリン事件だ。13人が死亡し、6千人以上が負傷した
▼事件の動機は教団への強制捜査を阻止するための無差別テロとされている。だが、なぜ全く関係のない人々を標的にしたのか、なぜ信者はオウムに引き付けられたのか、見えないことも多い
▼日本記者クラブで宗教学者の島田裕巳氏の講演を聴いた。若者がオウムに引き付けられた理由を「物質ではなく精神性だと説き、バブル経済についていけない人の受け皿となった」と分析した。それは現在の、格差に矛盾を感じる人々が向かう先にもつながるのではないかと話す
▼先進国から「イスラム国」に入る若者が後を絶たないという。先日も英国の3人の女子生徒がイスラム国を目指してシリアに渡航したと報じられた。罪のない人を殺し、残虐な映像を世界中に流す組織になぜ引かれるのか
▼島田氏は、国を挙げたオウム事件の調査研究を訴える。それが世界で起きる宗教に名を借りたテロ事件の防止に役立つのではないかという。風化する事件にもう一度光を当てる努力も必要だ。