<金口木舌>政権の素顔


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 中学校の修学旅行で宮崎県にある平和台公園を訪れた。1979年のことである。園内にそびえる「平和の塔」を見上げたのを覚えている。正面に刻まれた文字は「八紘一宇(はっこういちう)」

▼沖縄から来た中学生には未知の4文字だった。辞書風に説明すれば「世界を一つの家とすること。太平洋戦争期、日本の海外進出を正当化するために用いた標語」となる。敗戦と同時に厳しく問われたはずだった
▼ところが参院予算委員会でひょんと顔をのぞかせた。自民党の三原じゅん子議員が「八紘一宇」は「日本が建国以来、大切にしてきた価値観だ」と持論を交えて質疑した。答えた麻生太郎財務相は三原氏の親世代。「正直、驚いた」は本音か、冗談か
▼麻生財務相の祖父である吉田茂首相は1951年10月の国会答弁で「八紘一宇」を外国の情勢に耳を傾けない「狭隘(きょうあい)な考え方」と指摘した。前月のサンフランシスコ講和条約調印を念頭に置いた発言だ
▼三原氏の認識に、安倍政権の素顔を垣間見た思いがする。「積極的平和主義」の掛け声の裏に「八紘一宇」や「王道楽土」「大東亜共栄圏」の残影を感じずにはおれない。アジアの人々はもっと敏感であろう
▼国民を戦争に駆り立てた標語の復活を許すほど戦後70年の歩みは軽くないはずだが、国会周辺では戦後体験の風化が著しい。「歴史を学べ」の標語を据えておこう。