<金口木舌>「当たり前」への感謝


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 奥武山運動公園の中に1本のクスノキがある。かつてこの場所に建っていた「沖縄・兵庫友愛スポーツセンター」の記念碑建立に当たり、兵庫県からの寄付で植えられたものだ

▼復帰前、沖縄から本土へ渡るには伊丹空港と神戸港が空と海の主な玄関口だった。兵庫には沖縄県人が多く住み、沖縄戦当時の知事だった島田叡氏の出身地という縁もあって両県の交流が深まった
▼1975年にできた友愛スポーツセンターはその絆の象徴だった。沖縄の子どもに役立つ施設を造ろうと、兵庫の若者が呼び掛けた募金活動は全国に広まったとされる
▼戦後70年の節目に、沖縄と兵庫の新たな絆が生まれつつある。センバツ甲子園に出場する糸満高と島田氏の母校である兵庫高が16日に交流試合を行った。兵庫は初回に5点を奪う上々の滑り出しだったが、後半盛り返した糸満が14-6で勝った
▼大事なのは試合結果よりも両校ナインが残した感想にある。「当たり前に野球ができることに感謝したい」。兵庫高の前身の神戸二中、三高(現在の京大)、東京帝大の野球部で活躍し、激戦地の沖縄で最期を迎えた島田氏が取り持つ縁だ
▼21日から甲子園と県内でも高校球児が躍動している。平和な時代だからこそ「当たり前」のことができることに感謝したい。そんな球児たちの活躍を天上から島田氏も温かく見守ってくれるはずだ。