<金口木舌>見たことがない沖縄


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 「仕事はしない」と言い切ったと聞く。働くことで、芸術への欲求を抑圧したくなかったのだろう。彼の言葉を友人の一人は「写真」を一生かけて追求する宣言と受け取った

▼彼とは「写真界の芥川賞」、木村伊兵衛写真賞を受賞した県出身の写真家、石川竜一さん(30)のこと。筆者の同僚でもあるその友人は受賞作2作で謝辞をささげられた。沖縄国際大の学生時代、共に写真部員。「変わらず石川さんらしい写真」と話す同僚は写真集に目を通せずにいる
▼近い存在だけに単なる作品として見ることができない複雑な感情があるのだろう。だが、見るのに覚悟が必要な写真集であるのは間違いない。生々しいのだ
▼沖縄の人々の表情を捉えた「okinawan portraits 2010-2012」。笑顔はほぼない。自然で個性的。普段擦れ違っている人々なのだろうが、まじまじと見たことがない隣人の姿がそこにある
▼大学時代から撮影した写真を一枚残らず大切に保管する石川さんに、同僚は「作品」への気概を感じていた。確かに「絶景のポリフォニー」に写る沖縄の風景は美しくはないが、一枚一枚に引き付けられる
▼今後も独特な視点で見たことのない沖縄の風景や、沖縄の人々を捉えた写真を発表し続けてくれることを期待したい。沖縄の今を考える時、この2冊の写真集はきっと役立つ。