<金口木舌>「この期に及んで」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 一目見ておやっと驚いた後、くすっと笑う。東京の老舗デパート、日本橋三越本店に懸かるひときわ大きな垂れ幕だ。書かれた文字は「越後屋 お主も春よのう」

 ▼越後屋は三越の元の屋号。時代劇に出てくる悪代官のセリフをもじった粋なコピーに道行く人が指をさす。桜色のLEDやちょうちんが通りを彩る日本橋にことのほか似合う
 ▼こちらは時代劇だったらどの場面のセリフだろうか。「この期に及んで…」。「じたばたするねぇ」とでも言いたいか。発したのは菅義偉官房長官。13分の会見で4度も繰り返した
 ▼米軍普天間飛行場の移設先とする名護市辺野古沿岸での作業について、翁長雄志知事が停止を指示した日のことだ。菅氏は「わが国は法治国家であり、この期に及んで、こうした措置をするのは甚だ遺憾だ」といら立ちを見せた
 ▼政権からすれば、もう抵抗しても遅いと言いたいのだろう。しかし政治の世界で前政権の政策を覆すのはよくあること。民主党政権下で全国の自治体に配分された一括交付金を、沖縄以外を全廃したのは安倍政権である
 ▼前政権の「2030年代の原発ゼロ」も転換し、原発再稼働を進める。なぜ沖縄政策だけが「この期に及んで」なのか。しかも一度も新知事と話し合ったこともない。「腹は決めている」と語った翁長知事。沖縄の春は、浮かれる間もない攻防の春だ。