<金口木舌>タイプライターが刻んだ戦後史


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 沖縄市で長年、翻訳事務所を営んできた仲間徹さんの訃報を聞き、20年ほど前に初めてお会いした日を思い出した。短い会話だったが、穏やかな笑顔が印象に残っている

▼復帰前後の2年間、コザ市で暮らした直木賞作家の佐木隆三さんに「恋文三十年」という著作がある。米兵宛ての「恋文」を訳した仲間さんと、米兵と結婚した末にさまざまな困難を抱える女性たちの悲哀を描く
▼本にある「沖縄の戦後を考えるとき、決して忘れてはならないのは、利用されてきた女たちだ」という仲間さんの言葉に立ち止まる。「基地の街」の影を見詰め「恋文」の主を案じ続けた翻訳家の歴史観である
▼社会の下層でさげすまれながら、暮らしを支えた女性たちがいた。彼女たちの声やため息を聞き、仲間さんはタイプライターをたたいた。文面を束ねれば沖縄戦後史の一章を編むことができる
▼異民族統治が戦後沖縄の歩みをゆがめた。街も人も米軍基地にほんろうされてきた。それは今も続いている。その根源に沖縄戦がある。米軍が沖縄本島に上陸したのは70年前のきょう
▼重苦しい空気が漂う新年度を迎えた。自衛隊を「わが軍」と呼ぶ首相、辺野古の海を覆う暴力と不条理。戦後70年の荒れ地を私たちは歩まねばならない。声掛け合って、元気に歩こう。タイプライターが刻んだ沖縄戦後史もほのかに道を照らしてくれよう。