<金口木舌>国のアキレス腱


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 ギリシャ詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』に登場する英雄アキレスは無敵を誇った。しかしトロイア戦争で唯一の弱点のかかとを射られ死んだ

▼生後間もない息子の不死を願った母テティスが、冥府の川に彼の体を浸した際つかんだかかとだけ不死とならなかった。盛者必衰の歴史はアキレス腱(けん)の名に残る
▼安倍政権は翁長雄志知事の辺野古海上作業停止指示を無効とし、新基地建設に伴う埋め立てへ勢いづく。辺野古反対の沖縄の民意をくまずに埋め立ては「問題なし」とする菅義偉官房長官は5日に知事と面談する
▼だが盛者は「問題」を抱えている。前県政が埋め立て承認に伴い、最大限の環境保全の協議を求め、沖縄防衛局が設置した環境監視等検討委員会(委員長・中村由行横浜国立大学大学院教授)がその一つ
▼副委員長の東清二氏(琉球大学名誉教授)は「環境を保全できない」と辞意を表明した。生涯を懸けた琉球の昆虫の本を今も書き続ける県内屈指の研究者だ。石垣島の農家で育ち、昆虫に興味を抱いた東氏は沖縄戦で米軍の機銃掃射に遭い、戦争マラリアで死にかけ「戦争と基地は絶対駄目」が信念だ
▼監視委は内部から第三者機関設置を求める声が上がり、台風対策の巨大コンクリートブロックが大浦湾のサンゴ礁を破壊した。赤信号点滅の中、やがて開く次回監視委は国のアキレス腱となる。