<金口木舌>「チムグリサン」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄福祉の母と評される島マスさんが愛した言葉の一つに「チムグリサン」がある。自分も空腹ではあるが、少ない食事でも分けてやらねば「心が痛む」という意味だ

▼戦後の貧しい時代に、社会福祉の在り方を示した言葉でもある。だが、当時より格段に豊かになったとはいえ、子どもたちにとって厳しい現実は今もある
▼学童保育園長の比嘉道子さんら沖縄市の児童福祉関係者に話を聞き、胸が痛んだ。店から総菜が廃棄されるのを見計らい、それを拾って食べる子がいる。夏休み明けに登校した生徒が痩せていたのは、給食がなかったことが原因という
▼「食」以前の問題もある。放課後、母が仕事に出掛け、11カ月の乳児の面倒を見る小学3年生がいる。「老々介護」ならぬ「幼々養育」。車の中で生活していたケースもあった
▼比嘉さんらは「関係性の断絶で地域が子を育む力を失った」と分析、県全体の問題だという。そんな断絶の中で育った世代が親となり、貧困の連鎖の顕在化が懸念されるとも。とはいえ、連鎖を断ち切りたいと願う父、母はいる
▼「キッズももやま食堂」が5月から毎週土曜日夕刻に沖縄市諸見里に開店する。こうした地域の子どもと食事をし、学びを民間で支援する。地域の育む力が踏ん張って芽吹いたといえよう。「チムグリサン」を思い起こし、各地で取り組みが広まることを願う。