<金口木舌>愛情を詰め込みたい


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 子の入学や入園に喜びあふれる春。新しい日課に取り組む方も多いだろう。朝の弁当作りだ。最近はアニメのキャラクターなどを模した“キャラ弁”も流行している

 ▼異色の弁当本が話題だ。著者は八丈島に住む44歳のシングルマザー。高校生で反抗期の娘に「嫌がらせ弁当」と名付けた手作り弁当を3年間持たせた
 ▼きっかけは「娘に無視されたり、返事をしなかったりといった態度にカチンときて、仕返しの意味を込めて」。つくだ煮でホラー映画の主人公を描いたり、海苔(のり)で「早く起きろや」と書いたり。木工用ボンドや缶コーヒーを模した、食欲をそそらない弁当も
 ▼昼は土産品工場、時には内職と多忙な母は二日酔いの朝も5時起きだ。娘の「普通の弁当を」という嘆願もものともせず、美しくもなく、おいしそうでもないが、凝りに凝ったキャラ弁を作る。卒業の弁当は「嫌がらせの弁当を3年間残さず食べ続けました」という母からの表彰状
 ▼この本の末尾に娘はこうメッセージを寄せた。「今まで私のためにやってくれたこと、すべてに感謝しています。反抗期ムスメより」。母の愛情を受け止め、成長した様子がうかがえる
 ▼小さな箱の中に季節感ある山海の食材を彩り良く詰めた弁当は日本独特の文化という。愛情も詰め込めると思えば、弁当作りも苦にならないかも。新しい環境へ進む子と親にエールを送りたい。