<金口木舌>カササギへの共感


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ロッシーニのオペラ「泥棒かささぎ」は200年ほど前、ミラノ・スカラ座のために書き下ろされた。その旋律は村上春樹の長編小説「ねじまき鳥クロニクル」の核を成す

▼カササギはカラスより一回り小さく、光沢のある黒い体に腹と風切り羽の白が鮮やかだ。欧州から東アジアにかけての温帯に生息する。日本には豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に持ち帰ったとされる。漢字では「鵲」
▼国内では佐賀県や北海道の限られた場所に棲(す)む。県内ではめったに見られないはずだが、どう迷ったか先日、本部町の海洋博記念公園にひょっこり姿を現した
▼鳴き声が「カチカチ」と聞こえることから日本ではカチ(勝ち)ガラスの異名を取る。中国では七夕の夜の天の川に翼を渡し、牽牛(けんぎゅう)と織女を会わせる吉祥の鳥。万葉歌人の大伴家持も「鵲の橋」を詠む。欧州では古くから光る物を集める宝石泥棒として悪名高い。オペラでは銀食器を盗んで騒動を起こす
▼しかし最近の英国の研究で、見慣れない物を嫌う強い警戒心の持ち主と分かった。ヒトやゴリラなどの大型類人猿、イルカやゾウと同様に、鏡に映る己を認識する。カササギも持つ自己相対化の能力は他者への共感を可能にするそう
▼新たな季節が幕を開け、心も惑う春。自分のことばかり考えてもしょうがない。身の回りにある喜怒哀楽への共感から始めるとしよう。