<金口木舌>シーミーで語る戦世


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 墓の前に親類縁者が集まる。お互いの体調を気遣いながらの世間話が弾む。この場に来られなかった人の近況が話題になる。お次は子や孫の入学や就職報告。いつもながらのシーミーの風景だ。当方の墓は今帰仁にある

 ▼線香に火を付ける。ウチカビを焼き、静かに手を合わせる。持ち寄った供え物の重箱は似たようなものが並ぶ。スーパーの清明祭商品が幅を利かせている。その中で手作りのモーイ豆腐がうまい。やんばるならではの味覚だ
 ▼ウサンデーの料理を食べる。墓の中に眠るウヤファーフジ(先祖)の思い出話も飛び出す。現世と後世が触れ合う不思議な空間。そこに戦世の話が割り込むのは自然の成り行きだ
 ▼この墓がある地はかつて松並木があった。日本軍が陣地構築の資材とするため、松を伐採したという。80代半ばの叔父の証言を初めて聞いた。知らないことがまだある。語られていないことも多いであろう
 ▼戦後70年、周囲を見渡せば地上戦の名残が見つかる。集落の入り口にも日本軍の陣地壕がある。戦世と地続きの場で私たちは生きている。現世と後世が接するようなシーミーの場でいつも感じることだ
 ▼この週末も各地で清明祭がある。戦争を知る世代にお願いしたい。お墓の前で自らの体験を孫やひ孫の世代に語ってはどうか。戦禍に倒れたウヤファーフジの無念にも報いることになろう。