<金口木舌>茶色の朝


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 始まりは猫だった。茶色以外のペットを禁止する法律ができて、主人公は白黒の飼い猫を処分した。友人も黒い犬を始末した

▼フランスの心理学者フランク・パブロフの「茶色の朝」(大月書店)はこう始まる。法律に反対した新聞は廃刊になり、続いて本、ラジオ、酒、政党も茶色以外は追放される。茶色が世の中をひたひたと支配していく
▼違和感を覚えながらも、主人公は「流れに逆らわなければ安心だ」。やがて法律が変わり、過去の茶色以外の飼い主まで国家反逆罪となる。「あの時、抵抗すべきだった」と悔やむ主人公にも…
▼この本が世に出たのはフランスで極右政党が躍進した1998年。危機感を背景に100万部のベストセラーとなった。茶色はナチス初期の制服の色で、欧州ではファシズムの象徴だ。日本でも2003年に出版されブームに。特定秘密保護法が成立した2年前から再び話題になっている
▼集団的自衛権の行使、憲法9条の骨抜き、武器輸出解禁、自衛隊の全世界派遣-と歯止めが次々に外されていく。変だなと思いつつ、忙しいからとやり過ごしていると、後戻りできなくなってしまう
▼同書の解説で哲学者の高橋哲哉氏は、誰もが持つ怠慢、臆病、自己保身、無関心の積み重ねがファシズムを生むと指摘する。「思考停止をやめ、考え続けること」。茶色に染まる前に、できることはある。