<金口木舌>命を大切さ知る事実継承を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 仮の名で生きた。妊娠中絶や断種を強制された。遺骨は引き取られず死んでも存在を否定される-。ハンセン病への間違った認識による差別や偏見で起きた悲劇だ

▼国の強制隔離政策の過ちの歴史を伝えようと、国立療養所沖縄愛楽園(名護市)に資料館が完成した。3月末のプレオープンに多くの関係者が集う中、人けがなくなるまで見学する女性がいた
▼回復者として語り部となり、「ハンセン病だった私は幸せ」の著書もある金城幸子さんだ。「国の定めで尊い命が奪われた重大な歴史を感じ取ってほしい」。静かな語り口に心からの叫びを感じた
▼「100年後を生きる人々に必要な施設になる」。継承の意義を切々と語った金城さんの言葉の重みをたどりたいと過日、正式開館前の資料館を再び訪れた
▼入り口付近の小さな冊子に目が止まった。入園、退所、在宅治療、再入園…。元男性入所者の記録だった。病院のカルテもあった。紙切れと見過ごしてしまいそうな資料が苦難の過去を示していた
▼園は沖縄戦でも多大な被害を受け315人が亡くなった。戦後は食料や医師も不足し園内の業務は入所者が行った。そのため手足を痛め、後遺症が悪化し体が動かなくなった人も多かったという。国が行った戦争は立場の弱い者にさらなる苦しみを与えた。命を守る当たり前の社会の大切さを事実が物語っている。