<金口木舌>「方言論争」への回答


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 写真よりも素早く絵を描き上げた画家がいた。棟方志功である。1940年1月、日本民芸協会訪問団の団員として来県した時の逸話が愉快だ。画家に比較された写真家は土門拳

▼2人は糸満の市場を訪れた。画材を組み、手早く絵筆を振るう棟方に対し、土門はカメラを握り、じっくり被写体と向き合った。結果、土門がシャッターを切る前に棟方の作品が仕上がった
▼「写真機というのは不自由だな」という画家の言葉に写真家は苦笑いしたという。一気呵成(かせい)に作品を仕上げる棟方、粘り強くシャッターチャンスを待つ土門。対照的な2人だが「鬼」に例えられたことで共通する
▼来県時の棟方作「壺屋窯場図」を入手した画廊サエラ代表の松岡勇さんに絵を見せてもらった。紫紺の空、深紅の瓦が目に飛び込む。土門の緻密な写真とは別次元の大胆な筆で沖縄の風土を切り取った
▼75年前の民芸協会の来県は「方言論争」の契機となったことで知られる。県との対立を引き起こした座談会で言葉を発しなかったという棟方は何を思ったか
▼57年に沖縄を再訪した棟方は「人々たちは、あの力強い顔と、手と足に物を言わせて、たくましい本当さを一杯にしていました」と随想に記した。沖縄戦を生き延び、米統治に耐える島の姿に感じるものがあったのだろう。棟方流の方言論争への回答なのかもしれない。