<金口木舌>辺野古、「楕円」を描け


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 来県中の中谷元・防衛相はインターネットのコラムに書く。行政において物事には二つの中心があり、片方が無力化することなく両者がぎりぎりで拮抗(きっこう)して初めて円滑に進む。これを楕円の理論と紹介する

 ▼自由な言論が激しく統制された戦時下、独創的な修辞(レトリック)で文章を書き継いだ批評家がいる。福岡市出身の花田清輝(1909~74年)だ。43年まで雑誌に発表した作品群「復興期の精神」の最後に「楕円幻想」を書いた
 ▼中世フランスの詩人フランソア・ヴィヨンを題材にする。ヴィヨンは敬虔(けいけん)と猥雑(わいざつ)といった結びがたい二つの焦点を一つの額縁に収め、引き裂かれる魂のありようを見据えた。円の完全な調和でなく、矛盾しつつ複雑に調和する楕円が美しいのだと花田は感じ入る
 ▼「楕円が楕円である限り、それは醒(さ)めながら眠り、眠りながら醒め(中略)信じながら疑い、疑いながら信じることを意味する」
 ▼太平洋戦争末期、天皇制ファシズムに相反する思想を強制的に排除し、沖縄を捨て石に追いやった日本は不気味な円だった
 ▼政府は今、辺野古が「唯一の解決策」と繰り返す。歴史や民意といった沖縄の焦点を追い払い、楕円を描く努力を放棄して「辺野古唯一」にすがる。くだんのコラムで二つの焦点のせめぎ合うのが「健全な社会」とも述べた中谷防衛相の言葉にきょう、耳を澄ませよう。