<金口木舌>バスに乗って


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 「ふるさとの訛(なまり)なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」(石川啄木(たくぼく))。とまではゆかないが、自家用車所有をやめてバスに乗り始めたら発見した

▼盗み聞きするでもなく突然耳に入って来る乗客の言葉の断片がある。例えば一昨日の夜、中年女性の「あじゃま(あらら)」という言葉が耳に飛び込んだ。敬愛する叔母の口癖に、元気にしているかと思い出す。仕事帰りかその女性、同乗者と長男の問題を話し込んでいた
▼世に偶然生まれては消える言葉を拾ってめでる。そのことを歌人の穂村弘さんは著書「絶叫委員会」に書く。印象的な言葉との出合いに日常の裂け目をのぞく。人によって世界の見え方には必ずムラがある
▼「人間には世界そのものを生きるってことは不可能で、ひとりひとりの世界像を生きているに過ぎない/世界が歪(ゆが)むと云いつつ、実際に歪むのは世界像であって、世界そのものは微動だにしていないのだ」
▼バスの語源はラテン語のオムニバス(万人向きの)から来ているとか。昨年、辺野古の県民集会帰りに乗った路線バスでは乗客が大根の漬物を回し合った。旅は道連れ、世は情け
▼県は鉄軌道やLRT(次世代型路面電車)など本格的に交通網を検討している。深刻な交通渋滞解消が第一。火急の用がなければ公共交通の活用がお勧めだ。運が良ければ世界像を揺さぶられる特典も付いてくる。