<金口木舌>はじめに宣言があった


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 「初めに言(ことば)があった」とは新約聖書ヨハネ伝の一節。「言は神であった」とも記す。戦後の出発には「ポツダム宣言」と「終戦の詔書」がある。軍国主義国家の破綻、国民の忍従を刻む文面である

 ▼沖縄の場合はどうか。激しい地上戦の序章に「ニミッツ布告」がある。これによって日本の行政権が停止された。1879年の「琉球処分」から66年続いたヤマト世の区切りを告げたとも言えよう
 ▼文語体で表記された3文書は現代人にはとっつきにくい。ここから「軍国」「侵略」「東亜ノ解放」を拾い上げると、アジア太平洋戦争の輪郭をなぞることができよう。そのとき、焦土に立つ民の姿を見落としてはならぬ
 ▼沖縄は今も3文書の呪縛を見る。ポツダム宣言、ニミッツ布告を発した国は沖縄を日本と扱ったか。「国体護持」を力説した終戦の詔書は沖縄をどう位置付けたか。米国統治を経験し、基地を抱える地からの問いである
 ▼国会の党首討論で、安倍首相は過去の侵略を認めたポツダム宣言の条項を「つまびらかに読んでいない」と答えた。がくぜんとし、分かったことがある。この人が説く「戦後レジームからの脱却」の浅はかさだ
 ▼安倍政権は今夏、戦後70年談話をまとめる。未来志向の言辞で彩るつもりか。過去に背を向ける談話ならやめた方がよい。戦世の始まりを告げるような言葉を紡いではならない。