<金口木舌>見誤るなかれ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 論語に「民(たみ)信なくば立たず」とある。社会の信頼がなければ、政治は立ちゆかない。為政者への戒めの言葉である

▼米軍機の爆音被害からの救済などを求めた嘉手納爆音訴訟はことしで33年になる。今や第3次訴訟に至り、原告数は約2万2千人と一つの自治体規模になった。それにしても何と長きにわたり、民を苦しめる政治なのかと考えさせられる
▼1次訴訟から代理人弁護士を務める池宮城紀夫さんは弁護士人生43年のほとんどを訴訟に費やしてきた。31日の原告団総会が開かれた嘉手納町中央公民館からの帰り際、基地を横目に「還暦を過ぎれば米軍基地も多少は小さくなると思っていたが、小さくならないな」とつぶやいた
▼規模は変わらず、別基地の外来機も頻繁に飛来し、基地機能は膨張の一途。「死んでも、塩漬けにしてもらって法廷に立つ」。冗談と分かりつつ、そうは聞こえぬ現実がある
▼1982年2月の第1次提訴は原告数が約900人だった。大型訴訟ではあるが、経費の苦労は絶えず「大阪弁護団も、費用は全て手弁当だった」と振り返る
▼池宮城さんは言う。「嘉手納での闘いが辺野古新基地を阻止する」。訴訟が民の信を受け、多くの人権を目覚めさせたことは24倍余に増えた原告数が物語る。新基地建設に邁進(まいしん)する政府は、負荷をかけられて強靭(きょうじん)となった民心を見誤っては困る。