<金口木舌>区民のための喜屋武字誌


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 初めてカレーを食べたのはいつ? 近所でヒール靴を初めて履いたのは誰? こんな細かい情報まで網羅した南風原町喜屋武の字誌「喜屋武の歴史と文化」が完成した

 ▼ちなみに答えは、カレーが1953年。生活改善グループが講習で教わったカレーを新築祝いに出したところ大好評だった。区民には初の西洋料理だった。ヒール靴は58年、婦人会長が那覇の会合に行く際おめかしした。他にも、テレビ第1号の家や、最後のハジチ(入れ墨)女性が亡くなった年も記す
 ▼圧巻なのは登場人物の多さだ。区民600人が屋号付きで数々の逸話と共に紹介されている。戦後の米国文化に戸惑った失敗談、名物ばあさんの不思議な話、区内で起きた珍事件などなど。「読まれないと単なる印刷物。区民にこそ読んでもらいたかった」と発刊委員長の大城和喜さん
 ▼論文調を避け、うちなーぐちを交えた軟らかい文章からは、区民の顔や暮らしぶりが見えてくる。「泣ちゃい笑たい(喜怒哀楽)」が凝縮された生きた記録集だ
 ▼喜屋武の気質は「チャンカニ」(鉄のように固い結束力)、「ムスマイ」(団結力)といわれる。日ごろの密な人間関係、交流があるからこそ編めた庶民史といえる
 ▼大城さんは「知ることは地域を愛する第一歩」と説く。地元の宝を知り、子どもたちや未来の区民にもムスマイの心をつないでいける一冊だ。