<金口木舌>民主政治の禁じ手


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 プロ棋士の世界ではめったにない珍事と聞く。3月放送のNHK杯テレビ将棋トーナメント準決勝第2局は反則の「二歩」で勝敗が決した。既に歩がある縦の同じ筋に、もう一つ歩を打つという禁じ手である

▼その瞬間、勝った棋士は驚きの声を上げた。敗れた棋士は対局後、「あまりの衝撃に、その後のことは全く記憶がありません」とツイッターでぼやいた。取材も殺到したという
▼盤上の一筋に同じ駒、もし陸上ならばトラブルである。5月22日、JR長崎本線で上り特急列車と同じ線路に下り特急列車が誤進入した。那覇空港では今月3日、自衛隊ヘリが絡み、1本の滑走路上で旅客機同士が衝突しかねない事態が起きた
▼これは珍事とは呼べない。大惨事の一歩手前という危険な状況だった。いずれも急ブレーキが最悪の事態を回避した。公共交通は、ささいなミスが重大な危機を招き、運行に携わる者の瞬時の判断で事故を防ぐ
▼1本のレールをひた走り、安保関連法制の成立へと突き進む安倍政権を何と呼ぼうか。国民が抱く危機感から目を背け、憲法の理念を根底から覆す。これは民主政治を壊す禁じ手である
▼安倍政権の手持ちの駒では米国追随以外の一手を打つことができぬようだ。国会では憲法学者が「違憲」の声を上げた。今ならまだ間に合う。安倍政権の暴走に急ブレーキをかける時である。